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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)4324号 判決 1963年3月14日

原告 関口ハナ

被告 株式会社 関口本店

主文

関口繁雄を被告会社の清算人に選任する旨の被告会社の昭和三二年七月七日招集臨時株主総会の決議は、取消す。

原告の第一、二次の各請求を棄却する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告の求める裁判

(第一次請求)

関口繁雄を被告会社の清算人に選任する旨の被告会社の昭和三二年七月七日招集臨時株主総会の決議(以下、「本件決議」という)は、存在しないことを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。

(第二次請求)

本件決議は、無効であることを確認する。

訴訟費用は、被告の負担とする。

(第三次請求)

本件決議は、取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、被告の求める裁判

原告の請求を、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の主張

(第一次請求の原因)

(一) 被告会社は、昭和二年二月二六日設立された、資本金一〇〇万円、一株の金額一〇〇円(ただし、各株の払込金は、四〇円)、発行済株式の総数一〇、〇〇〇株の株式会社であり、原告は、被告会社の株主である。

(二) 被告会社の株主およびその持株数は、会社設立当初には、関口伊太郎二、五〇〇株、関口リノおよび関口伊三郎各二、〇〇〇株、関口信一、一、五〇〇株、関口フジ、関口愛子、関口尚子および原告各五〇〇株であつたが、その後伊太郎は、昭和一四年一二月一八日死亡したので、同人の持株は、長男の伊三郎が家督相続により承継し、また、信一は、昭和二〇年九月七日死亡したので、その持株は、子の関口喜美子が相続により承継し、被告会社の株主に加わつた。

(三) 被告会社は、昭和二四年一一月二八日に解散し、清算人に関口伊三郎が就任した。しかし、伊三郎は、清算事務を全く行わず、妻の関口キクエや、子の関口繁雄、関口誠太郎らが、伊三郎名義で、被告会社の所有不動産をほしいままに処分し、その代金を私用に費消することがあつたので、原告は、関口リノらとともに被告会社代表者関口伊三郎に対して、清算人関口伊三郎の解任およびその後任清算人の選任等の事項につき、被告会社の株主総会を招集すべき旨請求し、これにもとづき、昭和三二年七月七日午前一〇時、臨時株主総会が大阪市南区南阪町一五四番地の一なる被告会社本店に招集された。

(四) 右株主総会には、株主関口フジ(株主関口尚子の代理人を兼ねる)、株主関口愛子(株主関口喜美子の後見人東浦愛子の代理人を兼ねる)および原告(株主関口リノの代理人を兼ねる)が出席したほか、関口キクエ(株主関口伊三郎の代理人のほか、関口久雄、関口昌三および井上房吉の各代理人を兼ねる)、関口繁雄、関口誠太郎、関口清子、桂木三平および北村清吉の六名(以下、「関口キクエら六名」という)も来集したが、関口キクエら六名は、いずれも被告会社の株主ではないので、原告らにおいて、株主総会に出席するのを拒否したところ、退散した。そこで、原告ら(関口フジ、関口愛子および原告)は、清算人関口伊三郎欠席のため、原告を議長に選んだうえ開会し、議事を進め、全員一致で、清算人関口伊三郎を解任し、その後任の清算人に関口愛子を選任する旨の決議をし、愛子において、翌八日、右決議にもとづいて、清算人の解任および就任の登記を完了した。右の決議は、前記出席株主に議決権の代理行使を委任した株主の持株をもふくめると、合計五、五〇〇株の株式を有する株主によつてされたものであり、右株式数は、被告会社の発行済株式の総数の過半数に当るものであるから、有効であるところ、該決議については、関口繁雄、関口キクエおよび関口誠太郎の三名から、被告会社(代表者清算人関口愛子)を被告として、昭和三二年七月二七日大阪地方裁判所に決議無効確認等請求の訴が提起されたが(同庁昭和三二年(ワ)第三二五〇号事件)、請求棄却の判決がされ、右判決は、控訴審(大阪高等裁判所昭和三三年(ネ)第一九九号事件)において、変更されて、右決議無効確認請求は棄却、右決議の取消を求めるキクエ、誠太郎の訴は却下、繁雄の請求は棄却との判決がされ、さらに、上告審(最高裁判所昭和三五年(オ)第四五四号事件)で、上告棄却の判決がされ、確定した。

(五) ところが、右の決議がされている一方、前記株主総会の席から退散した関口キクエら六名は、キクエに議決権の代理行使を委任した前記関口伊三郎ほか三名の代理人たる資格をも兼ね、前同日(昭和三二年七月七日)午前一一時頃から前記被告会社本店内で、被告会社臨時株主総会を開会するものと称して集会したうえ、清算人関口伊三郎の辞任を承認し、かつ、関口繁雄をその後任の清算人に選任する旨の決議(後段が本件決議)をしたものとして、その旨の総会議事録を作成した。

(六) しかしながら、関口キクエらのした本件決議なるものは、つぎの理由により、法律上不存在というべきである。

(イ) 本件決議なるものは、関口キクエら六名ならびにキクエによつて代理される関口伊三郎、関口久雄、関口昌三および井上房吉の四名をあわせ、一〇名によつてされたというのであるが、そのうち、伊三郎を除く九名は、いずれも被告会社の株主ではない。また、伊三郎は、被告会社の株主ではあるが、みずからその決議の席に列したわけでなく、キクエを代理人として出席させ議決権を行使させたものであるところ、被告会社の定款によると、株主が株主総会で議決権を行使するばあいにおける代理人は、被告会社の株主に限るものとされている(定款二一条)にかかわらず、キクエは、被告会社の株主ではないから、同人を代理人とした伊三郎の右議決権行使も、効力を生じないものというほかない。このように、本件決議なるものは、株主でない者および株主を代理することのできない者のみによつてされたものであるから、株主総会の決議としては、法律上存在しないものというべきである。

(ロ) かりに、右定款の規定に違反する株主の議決権行使も、全然無効であるのではなく、一般的には、かしある決議方法として、たんに決議取消の対象となるにすぎない、と解されるとしても、本件の場合、後記被告の主張に従えば、キクエは、伊三郎の持株四、五〇〇株全部について同人を代理したものではなく、同人がたんに五〇〇株(四〇〇株とあるも誤記と認める)の株主であるという前提のもとに、これを代理して議決権を行使したにすぎないというのであるから、結局、本件決議なるものは、被告会社の発行済総株式数一〇、〇〇〇株、株主七名のうち、わずか五〇〇株を所有するにすぎない株主の伊三郎がただひとりでした決議であるということになり、会社の総株式数または会社の全株主数にくらべ、あまりに少数の株式を保有する少数の株主によりされた決議であるという意味において、社会通念上、株主総会の決議としては、存在しないものと認めるべきである。

(第二次請求の原因)

(七) かりに、本件決議が法律上存在するものとしても、右の事由は、決議を無効ならしめる原因にあたるから、本件決議は、無効というべきである。

(第三次請求の原因)

(八) かりに、右の主張も理由がないとしても、前記の事由は、決議の方法が法令または定款に違反する原因にあたるから、本件決議は、取消されるべきであり、さらに、つぎの理由によつても、本件決議の方法は、著しく不公正なものといえるから、取消をまぬがれない。

すなわち、大阪市南区南阪町一五〇番地の一宅地一四九坪九勺は、もと関口伊太郎の所有であつたが、同人は、右土地を昭和四年六月二四日被告会社に譲渡し、同月二五日所有権移転の仮登記をした。しかし、同人は、本登記をしないまま、昭和一四年一二月一八日死亡したところ、関口伊三郎は、家督相続により伊太郎から右土地の所有権を承継したとして、昭和一七年一〇月一五日、みずからのため、相続による所有権移転登記をした。そこで、被告会社は、解散後間もない頃から現在まで引続き、伊三郎と右土地の所有権の帰属について争つていたところ、関口繁雄は、昭和三二年七月九日、すでに同月七日伊三郎が被告会社の清算人を解任されているのにかかわらず、清算人伊三郎の名義で、被告会社が右土地に対する権利を放棄したとして、さきに被告会社のためされている仮登記の抹消登記手続をした。かように、繁雄は、不正手段をもつて被告会社のためきわめて不利益な行為をする者である。それにもかかわらず、右繁雄を被告会社の清算人に選任した本件決議は、著しく不公正な方法による決議というべきであるから、取消されるべきである。

(被告の主張に対する主張)

(九) 関口伊三郎が関口信一から、また、関口キクエら被告主張の九名が伊三郎から、それぞれ被告会社の株式の譲渡を受けたという事実は、否認する。

(一〇) かりに、被告の主張するような株式の譲渡契約があつたとしても、被告会社は、設立以来まだ株券を発行していないから、右株式の譲渡は、被告会社に対してその効力を生じないし(商法第二〇四条第二項)、また、右株式の譲渡を受けたという関口、キクエら九名の氏名および住所は、被告会社の株主名簿に記載されていないから、右株式の移転を被告会社に対抗することができない(商法第二〇六条第一項)。したがつて関口キクエら九名は、被告会社の株主の地位を取得していない。

二、被告の主張

(一)  原告主張の請求原因事実中、(一)および(五)の事実、(二)の事実のうち、関口喜美子が相続により関口信一の持株を承継取得したという事実を除くその余の事実、(三)の事実のうち、被告会社が解散し、清算人に関口伊三郎が就任したという事実、原告らの請求により、原告主張の日時、場所に、被告会社臨時株主総会が招集されたという事実、(四)の事実のうち、関口キクエら六名が被告会社の株主でないという事実を除くその余の事実、および(八)の事実のうち、原告主張の土地につき、その主張の登記が経由されているという事実は、いずれも認めるが、その他の事実は、否認する。

(二)  関口キクエ、関口繁雄、関口誠太郎、関口清子、関口久雄、関口昌三、井上房吉、桂木三平および北村清吉の九名は、いずれも関口伊三郎から被告会社の株式の譲渡を受けたものであるから、被告会社の株主である。すなわち、伊三郎は、被告会社の株式を、当初から二、〇〇〇株所有していたが、その後、原告主張のごとく、関口伊太郎から家督相続により二、五〇〇株承継取得し、さらに、関口信一から一、五〇〇株譲受け、合計六、〇〇〇株を所有するにいたつた。信一からの右株式の譲受けは、信一が昭和一二年中、伊太郎から大阪市南区西櫓町二〇番地宅地三六坪六合四勺の地上にある鉄筋コンクリート造地下付建物の贈与と、伊三郎から金五〇、〇〇〇円の出資を受けて、「合名会社関口」を設立し、料理飲食店を経営していたところ、昭和一五年六月、統制のため、同会社は、経営不振におちいり、解散せざるをえないこととなつたので、信一は、その際、右出資の代償として、伊三郎に対し、被告会社の株式一、五〇〇株を白紙委任状添付のうえ譲渡し、昭和一九年二月一〇日、その名義書換をも了したものである。ところで、伊三郎は、その所有にかかる被告会社の株式のうち、昭和一五年一月キクエに五〇〇株を、昭和二一年三月三〇日繁雄と誠太郎に各一、〇〇〇株を、さらに、昭和二二年五月五日昌三と久雄に各一、〇〇〇株、清子に四〇〇株、房吉、三平および清吉に各二〇〇株を、いずれも株券の裏書により譲渡し、キクエ、繁雄および誠太郎にあつては昭和二一年三月三〇日に、その他の者にあつては昭和二二年五月五日に、それぞれ被告会社株主名簿の名義書換をすませたものである。

(三)  以上のとおり、関口キクエら右九名は、いずれも、被告会社の株主である。そして、原告の主張する昭和三二年七月七日招集の臨時株主総会においては、まず出席株主の資格を審査したところ、株主でない関口喜美子が関口フジを代理人として株主総会に出席させ議決権を代理行使させようとしていたので、関口繁雄らにおいて、喜美子の代理人による議決権の行使を拒否したところ、原告、関口フジおよび関口愛子の三名は、いずれも、右株主総会の席から退出してしまつた。そこで、関口キクエら六名は、清算人関口伊三郎病気欠席のため、関口繁雄を議長に選んだうえ開会し、議事を進め、キクエによつて代理される関口伊三郎、関口久雄、関口昌三および井上房吉の分をもふくめて、結局、被告会社発行済株式の総数の過半数にあたる六、〇〇〇株の株式を有する一〇名の株主の全員一致によつて本件決議をしたものであるから、本件決議は、適法有効のものというべきである。

第三、証拠<省略>

理由

一、被告会社は、昭和二年二月二六日設立された資本金一〇〇万円、一株の金額一〇〇円(ただし、各株の払込金は、四〇円)発行済株式の総数一〇、〇〇〇株の株式会社であるが、昭和二四年一一月二八日に解散し、清算人に関口伊三郎が就任した。原告は、被告会社の株主であるが、関口リノらとともに、被告会社代表者関口伊三郎に対して、清算人関口伊三郎の解任およびその後任清算人の選任等の事項につき、被告会社の株主総会を招集すべき旨請求し、これにもとづき、昭和三二年七月七日午前一〇時、大阪市南区南阪町一五四番地の一なる被告会社本店に臨時株主総会が招集された。そして、同日午前一一時頃から右本店内で関口キクエ(関口伊三郎、関口久雄、関口昌三および井上房吉の各代理人の資格を兼ねる)、関口繁雄、関口誠太郎、関口清子、桂木三平および北村清吉は、右臨時株主総会を開会するものと称して集会したうえ、清算人関口伊三郎の辞任を承認し、かつ、関口繁雄をその後任の清算人に選任する旨の決議(後段が本件決議)をしたものとして、その旨の総会議事録を作成した。以上のことは、当事者間に争いがない。

二、原告は、本件決議の効力を争う前提として、該決議に関与した関口キクエら一〇名のうち、関口伊三郎を除く他の九名の者につき、被告会社の株主たる地位を否認するとともに、株主の地位を有しないキクエにおいて、関口伊三郎を代理してした議決権の行使が、その効力を生じえないことを主張するから、まづ、その点を判断する。

(一)  原本の存在および成立に争いのない甲第五号証の一、二、成立に争いのない甲第一、第四号証、乙第三号証、証人関口愛子、関口伊三郎の各証言を総合すれば、被告会社は、亡関口伊太郎が、従来個人でしていた営業を、税金軽減等の見地から、会社の組織により行わせる目的で設立したいわゆる同族会社で、設立当初の株主は、同人およびその妻子にかぎられていたし、その株式の移動に関しても、定款に、「株式は取締役社長の承認をうるにあらざればこれを他に譲渡しえず、これに反して株式の名義書換を請求するときは会社はこれを拒絶することができる。株券の裏書による譲渡はこれを禁止す」(定款第九条)、と規定されていた関係もあつて、株券を発行する実際上の必要も少なかつたところから、設立以来、株券を発行したことなく、ただ、株主の氏名および住所ならびに各株主の有する株式の数などのみを記載した(株券の番号は、記載されていない)、簡素な帳簿による株主名簿を作成し、これを関口伊太郎(同人の死亡後は、その妻リノ)において保管していた、という事実が認められる。この認定に抵触する甲第六号証の二、乙第一一号証の二の各記載の一部、被告会社代表者関口繁雄の供述は、前掲証拠と対比して、たやすく信用することはできない。もつとも、乙第九号証によると、被告会社取締役社長関口伊三郎の発行名義による昭和二一年五月三一日付の株券が現存していることが認められるが、前示甲第四号証、第五号証の二、証人関口愛子の証言および弁論の全趣旨とあわせ考えれば、右乙第九号証の株券は、その記載された発行日時においてはもとより、本件決議がされた昭和三二年七月七日当時においても、作成発行されていたものとは認め難いし(そもそも権限のある者によつて作成されたかどうかという点についてさえ、明確な心証を得るにいたらない)、また、乙第五号証(株主名簿)には、関口キクエら九名が、関口伊三郎から被告主張のとおり被告会社の株式の譲渡を受け、現に被告会社の株主である旨の記載がみられるが、前示甲第五号証の二と証人関口愛子の証言によつて、被告会社の設立当初からの真正な株主名簿と認められる甲第一号証には、キクエらが被告会社の株式の譲渡を受け株主である旨の記載はないうえ、右甲第一号証が存在するにかかわらず、なお乙第五号証が作成されたことの経緯につき十分首肯させるに足りる明確な証拠もなく、右の乙第五号証が真正に成立したものであるかどうかさえ疑わしいし、前示各証拠と対比しても、右記載内容が真実であるとの心証を惹くにいたらないから、これによつては、右認定を動かすには足りず、他に右認定をくつがえすに足る証拠もない。

(二)  そして、株券の発行前にした株式の譲渡は、会社に対しその効力を生じないから(商法第二〇四条第二項)、たとえ、被告主張のように、関口伊三郎が関口キクエら九名と株式の譲渡の契約をしていたとしても、前認定のように、被告会社が株券を発行していなかつた以上、伊三郎からキクエらへの株式の譲渡は、被告会社に対する関係においては、何等の効力をも生じないものとするほかなく(昭和三三年一〇月二四日最高裁判決、民集一二巻一四号三一九四頁参照)、したがつて、関口キクエら九名は、被告会社の株主の地位を取得していなかつたものといわざるをえない。なお、以上認定の事実によると被告会社は、会社成立後、株券発行準備の合理的期間を超えて株券の発行を怠つているものというべきであるけれども、かような場合といえども、株券の発行前における株式譲渡の効力が被告会社に対する関係で効力を生ずるものと解することはできないから(前記最高裁判決参照)、右の事情も、前記判断を左右するには足りない。

(三)  以上説示したとおり、関口キクエら一〇名のうち関口伊三郎を除く九名は、被告会社の株主ではないものというべきであるから、本件決議に関与した株主は、関口伊三郎のみ(同人が四、五〇〇株の株式を有していたことは、当事者間に争いがなく、その後における株式の譲渡または譲受が認められない以上、同人は、右株数の株式を有する株主と認めるべきである)であるということになるが、前掲乙第三号証によれば、被告会社の定款には「株主は、代理人をもつて議決権を行使することを得、ただし、代理人は、当会社の株主に限るものとす」という規定(定款第二一条)のあることが認められる。そして、このような定款の規定の効力については、争があるが、株主による議決機関たる株主総会の性格にかんがみるときは、株主の議決権行使方法に対する右の程度の制限は、株式会社の内部秩序維持上やむをえないものとして容認されるものというべく、あえて商法二三九条三項の規定に違反する無効のものとなすにあたらないものと解されるから、本件決議につき、伊三郎が被告会社の株主でないキクエ(同人が株主でないことは、右に認定した)を代理人として議決権を行使したものである(このことは、当事者間に争いがない)以上、同人の議決権行使は、右定款の規定に違反するものといわなければならない。

三、しかるところ、原告は、まづ、第一次請求として、本件決議の不存在の確認を請求するので、その当否につき考えるに、およそ、株主総会の決議の不存在とは、たとえば、招集権限ある者による株主総会の招集がなんら存在しないにかかわらず、株主らがほしいままに株主総会と称して集会したうえ議決をした場合であるとか、集会または議決の事実がまつたく存在しないのにかかわらず、あたかも株主総会の決議があつたように仮装して議事録が作成された場合などのように、社会観念上、決議をしたといわれる株主総会そのものの存在をも認めえない場合をいうものと解されるところ、本件決議は、前認定のとおり、招集権限ある者により株主総会として招集された日時場所において、相当数の株式を有する株主の代理人(その代理権行使の適否範囲等は、ともかくとして)が出席してされたものである以上、社会観念上、株主総会そのものが存在しないものということはできず、したがつて、また、本件決議が株主総会の決議として不存在のものであるということはできない。それゆえ、本件決議の不存在の確認を求める原告の第一次請求は、失当であつて、棄却をまぬがれない。

四、つぎに、原告は、第二次請求として、本件決議の無効の確認を請求する。しかし、株主総会の決議の無効の確認を求めることができるのは、決議の内容が法令または定款に違反する場合であるが(商法第二五二条)、前示認定した事由は、本件決議の成立の手続または方法に関するものであつて、その内容に及ぶものでなく、他に本件決議の内容が法令または定款に違反することを認める証拠も存しないから、本件決議が無効であるということはできない。したがつて、本件決議の無効の確認を請求する原告の第二次請求も、失当として、棄却すべきである。

五、しかし、前示認定のとおり、本件決議は、被告会社の株主でない者および被告会社の定款の規定上株主総会において代理人として議決権を行使することができない者によつてされたものであり、かかる決議は、その方法が法令または定款に違反するものというべきであるから、その他の点の判断に及ぶまでもなく、取消されなければならない(商法第二四七条)。したがつて、本件決議の取消を求める原告の第三次請求は、理由があるものというべきである。

六、以上のとおりであるから、本件決議の取消を求める原告の第三次請求は、認容すべく、本件決議の不存在の確認または無効の確認を求める第一、二次請求は、棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺田治郎 鈴木弘 坂詰幸次郎)

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